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ETV特集、「片づけその先に」はNHKONEで今夜夜9時55分ごろまでにご覧いただくと最後までご視聴いただけます。
ぜひ多くの方に、片づけの先にあるご家族の笑顔をご覧いただき暮らしを
整えるモチベーションにしていただけたら嬉しいです。
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片づけがなかなか進まないとき、少し手をつけては、やっぱり無理だなと諦めてしまう。そんな時、多くの方が真っ先に自分を責めてしまうんですよね。
「自分は意志が弱いのかもしれない」
「だらしない性格だから」って。
でも、たくさんの方のお部屋をご一緒に片づけてきて、私が思うのは少し違うことなんです。
片づけられないのは、性格のせいでも、やる気の問題でもありません。脳が、まだ片づけに慣れていないだけなんです。
今日はその「慣れていない」という話を入り口に、なぜ片づけがこんなにも難しく感じるのかを、いっしょに解きほぐしていきたいと思います。
片づけというと、モノを動かしたり収納したり、手放したりの「作業」だと思われがちです。
でも実際にやってみると、いちばん疲れるのは体ではなく、頭のほうなんです。
その正体は、決断です。
このタオルは残す? それとも手放す? この箱はどこにしまう?
いつか使うかもしれないこの道具は、どうしよう――。
片づけの一歩ごとに、こうした小さな決断が次から次へと押し寄せてきます。
心理学の世界には「決断疲れ」という言葉があるそうです。
人はたくさんの選択を続けると、それだけで疲れてしまう。片づけがしんどいのは、あなたが弱いからではなく、短い時間にあまりにも多くの決断を求められているからなんです。
しかも、この決断がやっかいなのは、まったく逆向きの二種類が混ざっていることです。
ひとつは、手放す決断。持っているものを減らしていく、いわば「引き算」の決断です。
このとき心にブレーキをかけるのは、「失いたくない」という気持ちです。
人は、何かを手に入れる喜びよりも、失う痛みのほうを大きく感じるといわれています。
だからこそ「まだ使うかもしれない」「もったいない」という言葉が、つい口をついて出てくるんです。
もうひとつは、買う決断。収納用品や家具など、必要なものを迎え入れる「足し算」の決断です。
たとえば、収納つきのベッドを買おうかどうか迷う。あの感覚がまさにこれです。
ここでブレーキになるのは
「後悔したくない」という気持ち。
サイズが合わなかったらどうしよう、片づいた気になるだけで終わったらどうしよう――。
買う前から、失敗の予感がよぎってしまうんです。
そして、じつはこの二つのあいだに、そっと挟まっているもうひとつの決断があります。
収納場所を変える決断です。
減らすわけでも、増やすわけでもない。
今あるものを、どこに置くか。定位置を組み替える決断です。
これは、三つのなかでいちばん軽い決断かもしれません。
手放すように何かを失うわけでもなく、買うようにお金がかかるわけでもない。
うまくいかなければ、また戻せばいいんです。やり直しがきく。
だからこそ、慣れていない脳にとっては、いちばんハードルが低いはずなので失敗を恐れずにやってみましょうね。
引き算と足し算。正反対に見えるこの二つですが、じつはまったく同じ気持ちから生まれています。
それは、「間違った選択をして、後悔したくない」という気持ちです。
手放して後悔するのが怖い。
買って後悔するのも怖い。だとしたら、どうなるか。何も決めないことが、いちばん安全に思えてきます。
散らかったままにしておけば、
少なくとも「間違えた」とは感じずにすむからです。
片づけを避けてしまう心理の正体は、ここにあります。
怠けているのでも、だらしないのでもありません。後悔を恐れる、とても慎重な心が、決断の手前で立ち止まっているだけなんです。
むしろ、まじめで丁寧な方ほど、動けなくなってしまうことがあります。
では、なぜその決断がこんなにも怖いのでしょうか。
答えはシンプルで、その決断を、脳がまだ何度もやったことがないからです。
片づけが習慣になっている人は、「これは要る・要らない」の判断が、ほとんど反射のように進みます。
でもそれは、その人がえらいからではありません。ただ、何度も繰り返してきたから、脳が慣れているだけなんです。
慣れていない脳にとっては、ひとつひとつの決断が、初めて登る階段のように負荷が高い。
だから疲れるし、避けたくなる。これは、運動や語学とまったく同じです。初めて自転車に乗る日が怖いのと、何も変わりません。
片づけをご一緒していると、こんな場面によく出会います。
ほとんど使っていないお皿が、棚の奥に何枚も重なっている。
その前で少し立ち止まっている方に、私はこんなふうにお伝えします。
「この3枚を手放せたら、大好きなパスタのお皿を、ご家族みんなの分、5枚そろえて置けますよ」と。
すると、それまで「減らさなきゃ」と少しこわばっていた表情が、
「それやりたい!」と笑顔に変わります。
きっとそのとき、頭の中には、家族みんなでパスタを囲む食卓が浮かんでいるのだと思います。
手放すお皿の枚数ではなく、これから生まれる時間のほうが、見えてくる。
こういう瞬間は、お皿にかぎりません。
長いあいだ袖を通していなかった服を思いきって手放した方は、
空いたクローゼットに、ずっと置き場所に困っていた本棚をすっぽり収めることができました。
かばんの中をひとつ整えた方は、毎朝のものの出し入れが、驚くほど軽くなりました。
どの方も、何かを失ったのではないんですよね。
手放したそのぶんだけ、暮らしにゆとりが生まれていったんです。
手放すことは、失うことではないのだと思います。
本当に大切なものと、大切な時間に、居場所をつくってあげること。
「減らす」ではなく「これが置けるようになる」――そう気づけたとき、人はふっと安心します。
そして、その小さな安心の一回一回が、脳を少しずつ慣らしていきます。
「手放したら、かえっていいことがあった」という体験が積み重なると、脳はだんだん「手放すのは、怖くないことなんだ」と覚えていく。
だから次のひとつは、もう少し軽く手放せる。その次は、もっと軽く。そうやって、脳は慣れていくんです。
そして、ここまで読んでくださった方に、いちばんお伝えしたいことがあります。
いきなり大きな決断をしようとしなくて大丈夫です。
多くの方が、片づけようと思い立つと、いちばん難しいところから手をつけようとします。例えば着物とか…。
あるいは、「まず収納用品を揃えなきゃ」と、大きな買い物から始めようとします。
でも、慣れていない脳に最初から難しい決断は固まってしまうんです。
順番は、まずは、忘れているものが入っている場所からがおすすめです。
押入れの奥に長年鎮座している布団や座布団から。
「手放しても平気だった」
そんな小さな成功を、脳に何度も体験させてあげてください。
そして、収納ベッドのような大きな買い物は、いちばん最後でいいんです。
要らないものを手放して、残すものの量が見えてから、そのぶんに合うものを選べばいい。そのころには、あんなに怖かった決断も、きっともう怖くなくなっています。
片づけられないのは、あなたのせいではありません。
まだ脳が慣れていないだけ。そして、慣れは、今日からの小さな一歩で必ず育っていきます。
その一歩を重ねるうちに、「もったいない」「いつか使うかも」という今までの考え方そのものが、自然と変わっていきます。
安心しながら、少しずつ。
ふと振り返った時に、「あれ私!片づけがしんどくない。出来るようになってる!」
と実感する日が必ずやってきますよ。
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